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10/11 2021 Monday

精神科救急について日精協とのやりとり


2021年6月2日

澤から日精協理事会への質問

 

日本精神科病院協会理事会 御中

日夜日本の精神医療のために尽力されていることに敬意を表し、感謝申し上げます。

ただ、2018年の診療報酬改定で、1996年の急性期治療病棟に与えられた、総病床数に対して一定とするという病床制限が、全くコピペして加えられました。1999年の日精協誌に「総病床数と急性期病床とは関係ないと」と私は論述しました(精神科急性期治療病棟の基準の矛盾、問題点とさわ病院の現状、澤 温、溝端直子:日本精神病院協会雑誌18:136-143,1999)。

2002年にできた救急入院料病棟にはこのような条件は付けられませんでした。担当者が変わり、突然2018年に加えられ、当時協会はQ&Aで既得権は今後も無くさせないと医療課と約束確認し、会員に日精協誌を通じ周知されました。ところが2020年の改定で、医療課がその既得権を無視し、来年3月で規定通りの制限を加えるとしています。この基準に改めて協会は反対意見を述べませんでした。

この基準は、病床削減を謳う国策にブレーキをかけるもので、特に地域移行機能強化病棟とは真っ向から対立するものです。この制限で減床せざるを得ない病院は公私合わせて39病院で、減床する病床は1600床に及びます。また国策に従ってすでに減床した病院も多くあり、例えば私どものさわ病院では最大603床をすでに455床に減らしてきました。

精神科救急入院料を算定する公私の精神科病院の4分の1にあたる39施設が救急病床の削減対象となっており、昨年来、精神科救急・急性期医療を守る会を結成しデータを集め、行政および各団体に働きかけてきました。日精協にも反対声明を出していただきたいとのお願いを出していますが、一緒に賛成するとも、賛成できず反対するとも答えを戴いていません。

このままお答えを戴かないまま、また前回の総会に質問で出した地域移行機能強化病棟と真っ向から対立するがどうかとの質問にもきちんと対応していただかないまま、6月以降もこれまでの体制を継続するなら、精神療養病棟を持たない約400余りの病院にも働きかけ、公立病院とも一緒に全日本公私精神科病院連合も立ち上げるという意見も強化せざるを得ません。すでに協会を離れた病院もあり、それはさらに加速されるでしょう。そうなりますと、私が2018年北海道で開かれた精神科医学会学術総会のシンポジウムで言ったように、10万床を超す精神療養病棟は、地域包括ケアを推進する中では、2012年に出された、「重度かつ慢性を除いて、1年以上の入院者は入院外治療に移行させる」という国の方針からみて、先ず1年以上開放処遇の患者は即時精神科療養病棟から地域に移行させるということを大きな目標とする全日本公私精神科病院連合を立ち上げざるを得ません。

たまたま古い書類を整理していたところ、2007年認知症療養病床について厚労省が日精協に断り無く調査したことに対して「大きな憤りを感じざるを得ない」(日精協発229号)と声明を出し、3週間後には厚労省からは「お詫び申し上げます」と、文書で謝罪させていたものを見つけました。これに比べると、救急入院料病棟の病床制限に対する協会の対応には私も「大きな憤りを感じざるを得ない」という心境です。護送船団の日精協と言われてきましたが、今回は無視されるのかと思わざるを得ませんがどうでしょうか?

次期役員選挙前お忙しいと思いますが、選挙までに精神科救急・急性期医療を守る会のお願いへの対応を示していただくようお願いします。

 

2021年6月2日

                                                                           社会医療法人北斗会

                        会長 澤 温 (協会会員)

 

 

 

2021年6月17日

社会医療法人北斗会

会長 澤 温 先生

公益社団法人 日本精神科病院協会

医療経済委員会

 

精神科救急入院料に係る病床数制限に対する反対声明について

謹啓 益々ご清祥のこととお慶び申し上げます。当協会の運営につきましては、平素から格別のご指導、ご協力を賜り厚くお礼申し上げます。

さて、先日理事会宛にお送りいただきました要望につきまして、確かに受け取りました。

先生のご指摘のとおり、2020年度の診療報酬改定におきまして、精神科救急入院料の病床数の制限が設けられて以降、様々な場面、特に社員総会において制限に対する撤廃の要望書は多くいただきました。

執行部としても、今回の制限については、経過措置の期限があまりにも短いということから、既に厚生労働省保険局医療課との交渉の場において、経過措置の延長を求めているところです。

一方で、精神科救急入院料については、本来期待されている基幹的な役割を担えていない病院があるという批判や、あまりにも多くの病棟をもつ病院においてはかえって地域の精神科救急体制を損なっているとの批判、あるいは、一部の医療機関だけではなく、より広い救急入院料を算定できるようにすべきとの意見も聞こえてきます。先生におかれましても、このような意見があることはご理解いただけると信じております。

更に、声明を発表することについては、診療報酬上の交渉では決して得策とは言えないものがあります。ご承知のように、診療報酬の改定はあくまで中医協で審議され、その結果を改定に反映されるものです。中医協は我々医療側の代表と健保組合等の支払側の代表、大学教授等の識者である公益側の合議制で行われます。厚生労働省保険局医療課が事務局として中医協に課題や論点を示し、大詰めに入ると提案を行うことになりますが、事前に各団体の声明内容に沿った課題・論点を示しますと、公益側や支払側からその声明に忖度をしての提案ではないか、といううがった見方をされてしまう材料になってしまい、逆に自らの首を絞める結果となる恐れがあります。

以上のことから、日精協からの声明については見送らせていただきたいと思いますが、真摯に精神科救急医療に取り組まれてきた会員病院が理不尽な不利益を被らぬよう、そして、精神科救急医療体制がさらに充実していくよう厚生労働省保険局医療課へ求めていきたいと思っておりますので、今後もご指導ご鞭撻のほど何卒よろしくお願い申し上げます。

なお、本回答につきましては、令和3年6月17日の理事会において承認を受けたことを申し添えます。

謹白

 

 

2021年6月23日

澤 温から日精協への再質問

 

日本精神科病院協会理事会 御中

先日は丁寧なご回答ありがとうございました。再度ご意見を申し上げるのをお許しください。

6月2日付の小生の御質問に、6月17日付で医療経済委員会を通じて回答を戴き、理事会の同日の承認を受けていますとのお返事を戴きました。ただ私の意見は医療経済の問題というより、本質的には日本の精神医療の有り方、医療政策を問うたものです。医療課が担当する診療報酬基準に関わるものなので、医療経済的な戦略の点は理解しても、医療政策委員会からの回答ならまだしも、質問者が回答元としてお願いしている理事会からの回答でなく、医療経済委員会からの回答でびっくりしました。

私の質問の「この基準は、病床削減を謳う国策にブレーキをかけるもので、特に地域移行機能強化病棟とは真っ向から対立するものです。」は医療経済の問題でなく、日本の精神医療の理念、方向性に関するものです。この点に関して、該当する病院で精神科救急病棟の基準に抵触する病院もあり、何とかしてくれと言われ、私も総会で質問を出しましたが、一度も日精協としての回答を戴いた記憶がありません。

「2018年北海道で開かれた精神科医学会学術総会のシンポジウムで言ったように10万床を超す精神療養病棟は、地域包括ケアを推進する中では、2012年に出された、『重度かつ慢性を除いて、1年以上の入院者は入院外治療に移行させる』という国の方針からみて、先ず1年以上開放処遇の患者は即時精神科療養病棟から地域に移行させる」という考えも同様に、長く言われてきた地域移行(一時は退院促進と大阪府から発信したものです)病床削減を国策とするという、大きな方向性、理念を言ったまでです。

医療経済は、医療の質を担保するため、特により多くのスタッフの配置、雇用のバックグラウンドとして重要です。私が昔から言っているように、救急医療は特別視されるものでなく、どの病院でもあるべきと考えていますが、おそらく2000年ころから診療所数の増加、訪問看護やデイケアの充実と薬物療法の変化で入院の短期化が進行し、精神科病院の病床稼働率が減少して、それまで見向きもしなかった病院んも精神科救急に力を入れ出したと理解しています。ただ、宇都宮病院事件以後、1987年の精神保健法の成立、翌年の施行以後精神保健指定医でなければ非自発的入院ができなくなり、ペーパー精神保健指定医が大手を振って、それに人材派遣業者が悪乗りして精神医療、特に精神科救急をやりにくくし、精神医療、特に精神科救急を崩壊させてています。医療経済でなく、医療政策も他の指定医研修委員会(以前竹内さんのころ、私も初めて日精協の委員会に入れて戴きました)、すべての委員会をあげて、精神医療のつまみ食いをしている診療所とこそ対峙して厚労省に当たるべきと思います。お返事は結構ですが、先日戴いたお返事は公立を含む39病院で共有させていただきます。

 2021年6月23日

               社会医療法人北斗会

                        会長 澤 温 (協会会員)

 

 

2021年9月9日

日精協による第10回日本精神医学会が横浜で開催され、医療経済委員会のシンポジウム「地域包括ケア時代の地域内精神科アウトリーチリエゾンコンサルテーション活動」がもたれた。質問に当たって、2012年に厚労省が出した「1年以上の入院者は重度かつ慢性を除いて入院外医療に移行させる」ということと、2010年頃から一般医療で言われた地域包括ケアが、2019年には精神科領域にもということで「精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築」が言われ出したから、アウトリーチの前に精神療養病棟の必要性を議論すべきでないか、すでに外堀は埋められていると考えるべきだと述べた。これはアウトリーチの問題と別だと逃げの返答があった。1年以上開放処遇の患者は即時精神科療養病棟から地域に移行させるべきと2018年に同じ日本精神医学会のシンポジウムで述べたが、どうなんだとさらに質問すると、精神療養病棟にいる人はほぼ重度かつ慢性だと考えている、あなたはどう思うかというので、それは日精協自身が調査すべき内容だろうと伝えた。重度かつ慢性の人を地域でみていくには、総合支援法で支援区分6、つまり毎月140万円近くかかると厚生労働科学研究(2018年分担研究者 澤 温)と発表したので、入院ならそれより重い人だから病床減らす分、人手を十分あげてみなければならないと国に主張するべきと伝えた。

最近地区の精神科病院協会での話し合いで「最近慢性病棟が埋まらないで困っている」と嘆く人がいた。フーッ!1991年に訪問看護やデイケアを積極的にすると入院日数も入院回数も減ると私は述べたし、住む場、最後のバックアップの精神科救急を一生懸命するとさらに慢性病棟の必要性は減る。このことを共有して、救急サービスを慢性病棟を埋めるためのツール(澤 温、精神医学巻頭言2006年)として絶対に使わないでもらいたい。医療と福祉の連携が言われて久しいがなお進んでいない。

今改めてグループホームを自前で展開した1992年の思い、「しかし、本来このような運動は医療機関のするべきところでなく、以前に述べたが、連携は勿論であるが、医療は医療に徹し、福祉は福祉部門に任せるべきであると考えるが、日本の現状をみるとき行政の行うのを待っていては地域で生活できる人々がその生きがいのある生活を送ることなく死を迎えさせるということに荷担することになってしまうためやむをえずするということになるのである」(澤 温、日精協誌 1992年)が蘇ってくる。あれから30年以上の時を経ているが・・・・。