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02/22 2026 Sunday

扶氏醫戒の略


扶氏醫戒の略
「扶氏醫戒の略」と聞いて、今の医学生の何割が知っているだろう、知っていたとしても何割が感激するだろう。
私の出会いは、大学の先輩のお父さんが開業していた品川の小さな救急外科医院の当直室の本棚だった。内科診療の実際(西川義方・西川一郎、南山堂)という革表紙の8cmくらいの厚さの本の表紙の裏からのページの上部に、数ページにわたってこの醫戒が載っていた。
 扶氏とは、ドイツの医師、クリストフ・ヴィルヘルム・フーフェラント(Christoph Wilhelm Hufeland、1762年8月12日 – 1836年8月25日)のことで、そのドイツ語の著を、緒方洪庵がオランダ語訳から重訳する形で日本語に抄訳したものとのことである。冒頭の「1、医の世に生活するは、人のためのみ、己の為に非ずという事を、其業の本旨とす。安逸を思はず、名利を顧みず、唯己れをすてて、人を救はん事を希うべし。人の生命を保全し、人の疾病を復活し、人の患苦を寛解する外、他事あるものに非ず。」を読んで、その当直室でゾクゾクッとしたのを覚えている。私が理事長の時は職員の新人研修に付録として入れていた。
 面白いと思ったのは、私が気に入っただけでなく、私の父、初代理事長もたまたまだが気に入っていたようである。彼の気に入り方はまた独特で、内容だけでなく、真偽のほどは知らないが、緒方が翻訳の添削時に入れた朱字のものと、誰の書かは知らないが美しい書のものを額装して理事長室に置いていた。後者は当時のコピーを額装して医局前に掲げ今に至っている。
 元のものはほくとクリニック病院を造った時、その医局の入り口に置いた。さわ病院の医局前のものは黄ばんで額もガタが来たので新しくし、必要なところに増やせるようにと考えたが、大型のコピーを作れるところは、誰の書かわからないが版権を気にしてPDF化してくれず、あちこち探してようやくPDF化(最後はPDFより、より精細なTIFファイル)して印刷までしてくれた。
 今回10のコピーを作り、お渡ししたいところにお贈りすることにした。「働き方改革」や「医療のコスパ」が言われる中、時代遅れと思われる方もおられるだろうが、何かのお役に立てれば幸いである。掲示して、若い医師に『隠れたパワハラ』と思われないことを願うばかりである。
 もう一つ、付録として、私が感激した山本周五郎原作、倉本聰脚本の赤ひげ(19)の「ひとり」(1973年3月2日放映)のコピーDVDもお贈りする。再放送があった時感激して、NHK大阪放送局に再度見に行って、最後はDVDが販売されていたので購入したもののコピーである(もう販売しておらずここでも販売でないので許されると思っている)。これも新人医師には部分をよくお見せするが、疲れ切っているからと診療を断った若い医師のことを周囲は理解を示すが、赤ひげが叱るもののその若い医師は赤ひげが正しいと悩むものである。これまた今ならパワハラ、働き方改革違反と言われるようなものであるが、作られた1973年は私が医師になって1年目の終わりであった時のものである。使い方にはご注意だがいろいろ考えさせられるものと思うし、そうあってもらいたい。
 2024年12月                           澤   温